仕事でいつも一番悩んでしまうのは、考えや理想をどのように具体的に実行するかだ。もちろんデザインや技術で悩むことも多いのだが、実はそれ以前の問題なんじゃないかと常々思っていた。
そんな時に友人から、NENDOを率いる佐藤氏の新しい著作を借りて読む機会があった。
『400のプロジェクトを同時に進める 佐藤オオキのスピード仕事術 』
何年か前、デザイン業界以外の方にどんなデザイナーがすごいか聞かれたときに、「NENDO」と即答したことがある。それぐらいNENDOに注目していた。
NENDOはその頃から数多くの国際的なプロジェクトをいくつも担当していたし、何よりも魅力的なデザインで見た瞬間にちょっと口元が緩んでしまうような感じが好きだった。
それまでの主流だった『デザイナーがデザインしました感』が強いものではなく、なんというか、もっと親しみやすいフレンドリーさが溢れていて、生活を豊かにしてくれる予感がする。それはもうデザインというより、世界観なんじゃないだろうか。そこに吸引力があるのだと思う。
本書はとても読みやすく、それでいて的確な内で、どんどんページが進む。読み終えると、悩んでいることの指標を得た気持ちがした。
具体的なデザインの手法よりも、仕事の考え方、進め方、そしてマインド的なところに重点が置かれて書かれているように見受けられる。そこが、自分にとってとても有用だった。
例えば、著者はこのように述べている。
考えが行き詰まったとき、世の中では「そこでもう一頑張りしたほうがいい」「結果を出すまでは自分を追い込むべきだ」「苦労してこそいい仕事ができる」といった考え方のほうが一般的ではないかと思います。
しかし私は、そういった負荷は長期的にあまりよい結果をもたらさない気がしています。
もし、アイデアが出てこないのにずっと考え続けていたら、おそらく仕事そのものをつらく感じ、嫌いになってしまうでしょう。仕事に集中して取り組み、よい結果を出し続けるためには、「仕事が好き」「仕事が楽しい」と言えることこそ何よりの強みになります。
まったくの同意なのだが、結果を出せてない人間がこれを正しいと言い切るのは難しい。だからいつも 、自分は『努力しているフリ』に逃げ道を作っていた気がする。ともすれば、他人に対しても無駄になってしまう努力を強いてしまうこともあった。反省している。
仕事をしていると、『基準』が欲しいときがある。もちろん自分という定規が絶対的な値を差してくれるならいいんだけど、あまり信用しきれないところもあって、これでいいのか、こっちがいいのか、いつもぶれてしまうからだ。
これからは、そんなとき「NENDO」ならどうする?ということを、一つの物差しにしてみようと思い立った次第。
もちろん、マイナーリーグの三流バッターが「こんなときイチローならどうする?」と考えるようなもので、あまりに身の程知らずだから、ちょっと人に言わないほうがいいことなんだろうけど、まぁ、ここに書いてしまおう(笑)。レベルが違っても、目指す方向は近いと思い込みたいのだ。
この本には、上に引用した文章だけではなく、仕事についてたくさんの金言が溢れている。デザインに関係なく、仕事をしている人のすべてにオススメ。
……と、ここまで書いておいて、この本で一番驚いたのは佐藤”オ”オキさんだったことだったりして。もう10年近く佐藤”ナ”オキさんだと思っていました。